テレビの無い生活が考えられない
一人暮らし歴約20年。
その間、テレビが無かったのはたった1日です。
それは初めての一人暮らし、第一日目でした。
小さなワンルームの部屋に荷物を運び入れて、だいたいの荷解きも終わり、手伝いに来てくれた母親も帰宅した後のこと。
シーン、という音が聞こえるぐらいの静寂でした。
私が初めての一人暮らしに選んだ部屋は、住宅街の中。大きな道路もありません。一人暮らしというものはこんなにも静かなものなのか、と恐怖を感じました。
あまりの静けさに恐怖を覚えた私は音楽をかけました。いつも自分の部屋で聞いていた曲だったのに、なんだか集中できない。ソワソワしてしまいます。
引っ越しをする前、テレビを買うのはいつもでいいやと思っていました。なぜなら、一人暮らしをする前、自分の部屋にテレビはありませんでした。テレビはリビングのみにありました。
だから大丈夫だと思っていたのです。でも、何とも言えない焦燥感。落ち着きません。
音楽をかけているから耳から音は入って来るけれど、目に入ってくるのは一切動かない部屋、家具たち。ガタガタ震えるような恐怖ではないけれど、なんとも言えない恐怖感。もしかして、これがホームシック…?
時計を見ると、近くにある家電量販店はまだ営業しています。出掛けるつもりではなかったのですが、すぐさま向かいました。
街のなんと賑やかなこと!街中に溢れる走っている車、歩いている人、お店の看板。私をソワソワさせていた恐怖感はすっかりなくなりました。
家電量販店で一番安いテレビを買いました。翌日届けてくれるそうです。なんなら持ち帰りたい気分でしたが、さすがに無理でした。手続きをしてくれた店員さんに見送られ、笑顔でお店を出ました。心の中では泣いていたけど。
帰り道、どうしても寄り道をしたくなった私はまだ空いているお店やコンビニに寄ってみました。部屋に戻る気分ではなかったのです。
いつまでも帰らない訳にはいきません。帰宅するとやはりシーンとした部屋。すぐさま音楽をかけました。
明日だ、明日になればテレビが来る、それまでの辛抱だ。そう自分に言い聞かせて音楽をかけたまま、シャワーを浴びました。
シャワーを浴びて部屋に戻ると、何か騒がしい。テレビのような音が聞こえてきます。
隣の部屋だ…!
この部屋の壁、薄いぞ…!
そう、若く経験の浅い私は壁の薄さのことなど考えもしませんでした。ちなみにレオパレスではありません。
私がシャワーを浴びている間に隣人が帰って来たようです。私は掛けていた音楽をメタルにかえました。引っ越しのご挨拶です。
壁の薄さで恐怖感は和らぎましたが、代わりにストレス値が上昇しました。私は隣が静かになるのを見計らって就寝しました。なんで隣のヤツに合わせなきゃいけないんだ、と思いつつも。
翌朝、テレビが来るのを今か今かと待っていました。そしてついに!テレビが届いたのです。念願のテレビです。初めてテレビがうちに来た家の子か!昭和か!オールウェイズ三丁目の夕日か!というくらいテンションが爆上がりでした。
私は素早く設置し、電源を付けました。テレビだ!人間が動いてる!喋ってる!私の恐怖感、焦燥感はすっかり消えました。
その後、隣人がギターを弾き語りしたり、深夜に桃鉄をしていたり、友人を呼ぶ度に本を壁に投げつけたり、壁を殴って抗議する日々が続くのですが、それはまた別の話。隣人と同じテレビ番組を見ていてサラウンドみたいになった時はちょっと笑いましたが。
この時からです。
私は起きたらまずテレビを付けます。出掛ける時に消します。帰宅したらまず付けます。お風呂に入る時に消します。約20年間、毎日変わらず続けています。旅行先でも同じです。
でも、常にテレビを見ている訳ではないのです。BGMみたいなものです。私はこれからもこの生活をすると思います。
最近、常にテレビを付けている生活について、意外なことがわかりました。
姉の夫から「お前ら同じことしてんな。」と言われました。どうやら姉も同じことをしているようです。
姉に聞いてみると、同じようにBGM扱いなのだそうです。血は争えませんな。